「財務デューデリジェンス」の青山トラスト会計社
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小売業(スーパー)のポイント

【特徴】

 スーパー・コンビニは、衣食住に欠かせない日常品目をすべて揃えている大型の総合型、食料品・衣料品等の特定の商品を扱う専門型、小型店舗で話題の人気商品から生活必需品まで幅広く取り扱うコンビニ等があり、近年ではインターネットを利用したネットスーパーも普及しています。
 本項では、その中でも総合スーパーを営む中小企業を想定して解説しています。

 

①店舗型ビジネス

 小売業は、地域住民と密接に関係しており、その地域の特性に応じて大型のチェーン店から小型の専門店まで様々な形態が見られます。店舗を開設するためには土地や建物はもちろんのこと、陳列棚やPOSレジ等など、多額の設備投資が必要となります。金融機関からの借入のほか、資金負担軽減のためリースや割賦契約を利用するケースも見られます。

②多品種・大量の商品

 小売業の商品は、生鮮・加工食品、惣菜、日用品など幅広く、定番品から季節限定品、PBや販売委託品まで、多品種・大量の商品を取り扱います。商品の中には、値引きや廃棄が頻繁に行われる商品や温度管理が必要なものもあり、特性に応じた商品管理が必要になります。また、生活用品を取り扱う性格上、盗難や万引きなどにも注意が必要です。

③POSレジによる管理

 多品種・大量の商品を取り扱う中で、売上・在庫に関する情報を漏れなく正確に管理するため、POSレジを導入することが一般的です。POSレジには、売上分析機能をはじめ、顧客管理機能や在庫管理機能を備えていることが多く、複数店舗で集計・記録したデータを瞬時に統合することもできるため、各店舗の売上管理を一元化することも可能となります。

④現金販売が基本である

 小売業はレジを通じた直接販売のため、現金決済が中心となります。現金は、数え間違いや紛失、盗難等のリスクが高いため、POSレジデータと現金の照合、金庫等での保全、違算の分析など、適切な管理体制を構築することが求められます。 一方で、近年は決済手段も多様化しており、商品券やクレジットカードの他、電子マネー等の利用も増えています。

⑤ポイント制度の採用

 小売業では、顧客の囲い込み戦略として広くポイント制度が利用されています。ポイント制度は、付与したポイントを現金と同等のものとして利用することで販売促進を目的として使用するだけでなく、顧客情報を管理することにも利用されています。それ故、ポイント制度を利用する場合には、顧客別の残高管理が重要となります。

⑥外的要因の影響

 小売業は、地域の生活エリアに密着しており、その業績は近隣のライバル店の動向(オープン、リニューアル、セール、撤退等)に大きな影響を受けます。近年では、業種の垣根を越えて同じ商品を取扱うケースが増えており、同業のライバル店だけでなく他業種との競争も無視できなくなってきています。

⑦店子に対するスペース貸し

 小売業(百貨店やスーパー等)では、店舗の空きスペースに店子が入るケースがありますが、店子との賃貸借契約には、大きく分けて①固定賃料方式②売上高比例賃料方式③組合せ方式の3パターンがあります。このうち②③の契約については、店子の売上高と賃料収入が連動するため店子の売上金を一度預かり、賃料と相殺して返金することとなります。

 

【財務DDのポイント】
上述のような特徴を踏まえ、財務デューデリジェンスにあたっては以下のような点に留意しながら実施しています。

 

■全般事項

1.店舗別管理

 小売業は、多店舗展開していることが多く、店舗単位で事業の実態を把握することが重要となります。
 財務デューデリジェンスにおいては、店舗ごとに売上規模や収益性、不動産や設備に対する投資額等の分析を行います。店舗ごとの特徴・特色を把握することにより、M&A実施後の事業計画作成や不採算店舗の管理等にも役立てることができます。

2.設備投資

 小売業は典型的なB to Cビジネスであり、老朽化等により店舗の魅力が低下すると収益性にも直結するため、一定のサイクルでリニューアル等の更新投資が必要になります。
 過去の設備投資実績や新規出店等の計画を確認するとともに、設備資金の調達方法についても把握することで、M&A後の資金手当ての必要性についても確認することが出来ます。

3.現物資産の管理(現金・商品)

 小売業は、従業員が日常的に現金や商品を取り扱い、また、一般的に持ち運びも容易であることから盗難リスクが高い業界といえます。
 財務デューデリジェンスにおいては、現金や商品の実在性や評価の妥当性の検証だけでなく、現金や商品の保管状況や保管体制、実査や実地棚卸の実施状況などの管理面についても把握することが必要となります。

 

■貸借対照表項目


① 現金、売上債権

 小売業では、現在でも現金売上が少なくないため、レジ現金の管理業務フローを確認したうえで、現金残高について、POSレジの現金残高情報や実査結果との照合を行います。
 また、クレジットカードや電子マネーによる売上債権については、売上債権の計上・消込が適切に行われ、残高が適正であることを確認します。

② 棚卸資産

 棚卸資産は、財務デューデリジェンスにおいて、在庫の実在性と評価の妥当性が重要なポイントとなります。

 小売業は、商品のアイテム数が膨大であるため、カウント誤り等のミスも発生しやすく、実在性の評価は重要です。財務デューデリジェンスに当たっては、通常、実地棚卸の立ち合いはできないため、実地棚卸表を閲覧するとともに、在庫の管理の状況(棚卸の実施方法、実施頻度、棚差の処理方法等)を把握し、総合的に評価することが重要となります。

 また、小売業においては、多品種・大量に取り扱う商品の仕入原価を個別に把握することは実務上困難なため、値入率などの類似している商品等をグルーピングし、各グループの期末商品の売価の合計額に原価率を乗じて期末在庫を評価する方法(「売価還元法」という)で評価することが一般的です。

 中小規模の事業者においては、売価還元率の計算が厳密に行われておらず実勢から乖離していることも散見されますので、財務デューデリジェンスにおいては、売価還元法の原価率が適切かについての検証が必要となります。また、在庫の評価に当たっては、消費期限や賞味期限切れの商品や廃棄商品の取扱いについても注意が必要です。

③固定資産

 小売業の財務デューデリジェンスにおいては、固定資産台帳の閲覧により、各店舗の設備の内容や投資額を把握するとともに、固定資産の使用状況や管理状況、除却処理漏れとなっている資産の有無も確認します。 また、土地等の時価があるものについては、鑑定評価額等で時価評価します。

 建物や器具備品等の償却資産について、特に中小規模の小売業では、業績の低迷期に減価償却費を計上しない、あるいは税制優遇措置である特別償却や圧縮記帳等を行っているケースがありますが、その場合には、通常の減価償却を行っていたと仮定した場合の貸借対照表価額を算定します。

④減損会計

 買手が上場企業の場合には、不採算店舗について減損会計適用の要否の検討が必要となります。
 減損会計では、固定資産の帳簿価額のうち、将来の営業活動等により回収が見込めない部分を減損損失として評価減します。店舗ごとの事業計画をもとに減損の検討を行いますが、事業計画の作成の前提や計画の実行可能性などの分析が重要となります。

⑤資産除去債務

 小売業では、商業施設やビルなどを賃借して入居するケースも多く、こうした賃貸借契約には一般的に退去時の原状回復義務が定められており、退去時には原状回復費用の負担が必要となります。
 これらに関しては、過去の退去費用の実績などを参考に、原状回復費用を合理的に見積り、残存契約期間を考慮して負債計上する必要があります。

⑥ポイント引当金

 小売業では、販促目的でポイント制度を導入している会社が多く見られますが、中小規模の事業者では、ポイントの付与時点ではなく、使用時点で費用を認識するケースがほとんどです。
 しかしながら、付与時点で既に潜在債務は発生しているため、将来の使用見積率をもとに、ポイント引当金を計上することが必要となります。

⑦賞与引当金・退職給付引当金

 多数の従業員・パート・アルバイトを雇用することが必要な小売業では、賞与引当金や退職給付引当金などは重要となります。
 特に中小企業では、税務基準によりこれらの引当金を計上していないことも多く、財務デューデリジェンスでは、会社の規程や過去の支給実績などを把握し、適切な要引当額を計上する必要があります。

 

■損益計算書項目


①売上高・売上総利益

 小売業は、取り扱っている商品アイテムが多く、またその取引量が膨大であることから、通常、POSレジによるシステム化が浸透しています。
 財務デューデリジェンスにおいては、POSレジのデータを分析することにより収益性(売上高・売上総利益率、一人当たりの売上等)の分析を行います。

 収益性の分析にあたっては、商品群別の売上高・売上総利益、平均単価、季節的変動性などに注意し、店舗単位で分析を行うことがベースとなります。売上高・売上総利益などの財務情報だけでなく、来店客数や売り場面積などの非財務情報を利用し、客単価・売り場面積単価などを分析に組み込むことで、各店舗別の実態がより明確になります。

②売上高(賃料収入)

 前述の通り、小売業では店舗の空きスペースに店子が入るケースがありますが、財務デューデリジェンスにおいては、必要に応じて店子との契約書を閲覧し、賃料収入の計上方法(固定賃料方式、売上高比例賃料方式、組み合わせ方式)や預り金の管理方法等を確認します。

③仕入リベート

 小売業では、取引量に応じて仕入先からリベートや割戻を受取るケースが多く見られます。財務デューデリジェンスにおいては、主要な取引先との契約書を確認し、帳簿外で処理されているリベート等がないか確認します。
 なお、リベートは購買担当者が個人的に受領する不正につながることもあり、注意が必要です。

④販売費及び一般管理費

 小売業は、一定の設備投資が必要であるとともに、店舗の運営には多くの人員が必要となることから、減価償却費・賃借料・人件費などの固定費の割合が高くなります。
 財務デューデリジェンスにあたっては、主要な科目の内容についてヒアリングをするとともに、人件費と設備投資の最適配分の分析や損益分岐点分析等を行うことも有効となります。

 

■その他の留意事項

①借入金に対する債務保証や担保提供

 小売業においても、店舗に多額の設備投資が必要となることから、金融機関から借入れをしている企業も多く見受けられます。
 中小企業では、これらの借入金に対して社長自らが個人保証を行っている、或いは個人資産(不動産等)が担保提供されていることが少なくありません。個人保証の解除は、中小企業のM&Aでは極めて重視される事項と言えます。

②労働時間の管理(未払残業代)

 小売業においても、人手不足が叫ばれおり、長時間労働や未払い残業代の問題は潜在的な債務となりうるだけでなく、コンプライアンス上も非常に重要な問題です。未払い残業の判断は、一義的には、人事/労務デューデリジェンスの範疇ですが、質問による状況の把握と就業規則・タイムカード・賃金台帳などの閲覧による概算金額の把握も有意義なものとなります。

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