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中小企業M&Aを行う上で留意すべき事項

中小企業M&Aにおける「有用な情報の入手」にあたっては、オーナー経営者の協力を得ることが非常に重要です。
今回は、中小企業ならではのハードルを越えるために留意すべきポイント5つを解説します。

 

(1) 秘密保持の厳守
 中小企業のM&Aにおいて、売り手(オーナー経営者)は、会社の売却に対して“負”のイメージを抱きつつM&Aの交渉や手続きを進めていくことが多いことから、ほとんどの場合、従業員や取引先などの利害関係者に会社を譲渡する意図を知られたくないと思っています。わが国ではいまだに「業績の悪化=会社の譲渡」というイメージが根強く残っていますので、M&Aの意図が外部に知られると、利害関係者が会社の将来を悲観して離散する可能性があると考えられています。
 一方、買い手にとっても、譲渡情報が流れた結果、信用力が低下した企業を譲り受けても、期待していたシナジー効果が得られなくなる可能性があります。
 このように売り手にとっても買い手にとっても、「秘密保持」はきわめて重要な事項です。それゆえ、当事者双方の関係者はもちろんのこと、アドバイザーや各種の専門家も情報の取扱いにはきわめて厳格な注意を払わなければなりません。

(2) 信頼関係の醸成
 多くの中小企業のオーナー経営者は、会社や従業員に対して特別な想いを抱いています。そのためM&A後の会社の存続・発展や従業員の雇用維持を重視し、株式の譲渡価額よりも相手(譲渡先=買い手)が信頼に値する人物であるかどうかをより重視する傾向がみられます。M&Aを決めた要因として、「譲渡先の信頼」が「譲渡価額」を大幅に上回っているという事実にこそ、中小企業M&Aの特性が表れています。
 また、買い手にとって、買収後、両者のシナジー効果を高めていけるかどうかは、譲渡契約後の組織統合マネジメント(PMI=Post Merger Integration)の巧拙に大きく左右されます。売り手と買い手の企業文化を融合させることは多くの困難を伴いますが、企業グループとしての持続的な成長のためにはきわめて重要な事項です。
 中小企業の場合には、オーナー経営者の個性が企業文化に色濃く反映されていることから、しばらくの間、売り手企業の社風が尊重されることによって従業員のモチベーションが維持され、経営統合が円滑に進むことが多いように見受けられます。こうしたことからも、両社の経営者の間に信頼関係が構築されることが、M&Aを成功へ導くためにきわめて重要となります。

(3) タイミングの重要性
 M&Aは企業(事業)の売買であることから、買い手は当然に魅力のある企業を買収したいと思うものであり、それ故、売り手としては常に企業価値を高めていく必要があります。
 しかしながら、中小企業の経営者にとっては、会社の譲渡はあまり気が進まない場合も多く、事業承継の準備を先送りして日常業務を優先する傾向が強くなりがちです。そうなると、売り手は十分な準備をしないまま交渉の場に臨まなければならなくなり、適切な譲渡先の選択や売却価額の交渉ができないばかりか、役員や従業員の待遇などの条件面も満足いくものでなくなるおそれがあります。また、経営者の健康状態の悪化や景気の動向などによって、事業承継のタイミングを逸してしまうことがあるかもしれません。
 一般的に、どんな会社でも、経営者が一定の年齢を超え、高齢になればなるほど業績が悪くなるといわれていますが、中小企業の場合には特にその傾向が強く見られます。業績が下降線をたどっている企業は、買い手にとっては当然に魅力が乏しく、M&Aは成立しにくくなります。経営が行き詰った企業の買い手は見つかりにくいという意味でも、M&Aのタイミングは非常に重要となります。

(4) 経営者への配慮
 中小企業のオーナー経営者は、事業に関する判断をほとんど自分一人で行っていることも多く、その責任は極めて重いものとなります。それゆえ、事業に対して高いプライドを持っており、事業に対する誹謗中傷はもちろんのこと、些細な指摘でも言い方によっては自尊心を傷つけます。
 中小企業のM&Aに関する意思決定はオーナー経営者が独断で行うことも多く、そのため、オーナー経営者の心情に対して特別な配慮が必要となります。事実を曲げて伝えることは決して望ましいとは言えませんが、伝え方やタイミングなどについては慎重に検討すべきです。

(5) 個人保証の解除の問題
 中小企業が運転資金や設備投資資金などを金融機関から借り入れる場合には、原則的に経営者の個人保証が求められます。個人保証は経営者にとって会社を経営していくうえで最大の重荷であるといっても過言ではありません。
 中小企業のM&Aにおいては、個人保証の解除が株式の売却価額以上に重視されることも少なくありません。個人保証が外れるのであれば会社の譲渡価額はゼロでもいいという経営者もまれではなく、そのようなM&Aも実際によく見受けられます。そのため、中小企業のM&Aにおいて譲渡契約が締結された場合には、すみやかな個人保証の解除手続が必要であり、その後の円滑な引継ぎを行う上でも非常に重要な事項となります。

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